「貧乏はお金持ち」(橘 玲)

「貧乏はお金持ち」(橘 玲)

「貧乏はお金持ち」(橘 玲)の「第 1 章 楽園を追われて——フリーエージェントとマイクロ法人の未来」の「20 世紀少年」41 ページより。

大阪万博の興奮も冷め、イギリスのロックバンド、T レックスの『トゥエンティ・センチュリー・ボーイ』が深夜ラジオから流れていた頃、世紀末に人類は滅亡するとの予言の書が大ベストセラーになった。浦沢直樹の『20 世紀少年』で、ケンヂやオッチョなど当時の小学生は、秘密基地に集まって、地球最後の日の姿を彼らの「よげんの書」に書いた。迫りくる死が確実なほど、いまはきらきらと輝いていた。だが二十一世紀が近づいても世界が滅びる気配はなく、退屈な日常がえんえんとつづき、私たちはただ年をとっていく。その事実に耐えられなくなった仲間の一人が「ともだち」という奇妙なカルト組織をつくり、自らの手で世界滅亡を目指す……。

『20 世紀少年』で描かれたもうひとつの未来は、作中人物と同世代の人間にはとても馴染み深いものだ。私たちはみな、それぞれの「よげんの書」を胸に抱いて大人になってきた。

(中略)

『20 世紀少年』では、時代の閉塞感に風穴を開けるため、「ともだち」は細菌兵器による世界滅亡を目指した。二十一世紀の日本では、ネットカフェに漂う若者たちが、戦争にわずかな希望を見出している。だが残酷なことに彼らの「よげん」が実現することはなく、世界はなにも変わらず、日々あらたな「難民」が生み出されていくだけだ。